ソロモン戦で「駆逐艦の消耗戦」に巻込まれ、真っ青になった日本海軍が急遽、建造した戦時急造の護衛駆逐艦。

 少ない工数と資材で建造できる事が最大の目的であり、海風型以来、日本海軍が建造してきた従来の駆逐艦とは思想を異にする艦である。
 外見も曲線を極力減らし、箱型艦橋を採用するなど直線的なスタイルで他艦と大きく異なっている。

 生産性と、主敵は潜水艦や航空機であり高速発揮は不要との観点もあり機関は鴻型水雷艇の19000馬力のものをそのまま使用した為、速力は日本駆逐艦最低(当時)の27.8ノットとなったが、特に問題は生じず、船団護衛に活躍した。

 華々しい水雷決戦でなく、地味な護衛・哨戒任務を目的に建造された日陰の華であるが、その分、「時代に適合」しており、強力な対空装備と対潜装備は本型を大戦末期の有力艦なったのは皮肉である。 また、主機・缶・主機・缶と分割した上でオフセットして配置した機関は陽炎型や夕雲型では行動不能となるような損傷を受けても自力帰還に成功するケースもあり、戦時急造艦ながら従来艦よりも成功した艦であるといえる。 ただし、戦時急造艦としては、艦尾形状が工作の困難なデストロイヤースターンであったり、高価なHT鋼が使用されていたりと、徹底さを欠き、19番艦<橘>以降はより簡略化が進められた。

 なお、松型は植物名である為、二等駆逐艦と勘違いされる事もあるが、基準排水量1262トンは八八艦隊計画における主力駆逐艦である峯風型より50近くも重い、堂々たる一等駆逐艦である。

松型 
直線的な船体や箱型の艦橋など、他の日本駆逐艦とは一線を画する独特のデザインが特徴の戦時急造駆逐艦。

二二号電波探信儀が松型は前檣と分離して設置されているのに対し、橘型は一体化された統合檣である所が識別のポイント。(この画像は松型)

丁型型要目(新造時)

 名  称   丁型(松型)
 ネームシップ  松
 建造時期  昭和19年4月28日
 建 造 数 18隻
 基準排水量  1262トン
 全  長   100.0m
 水 線 幅   9.4m
 吃  水   3.3m
 主  機   艦本式ギヤードタービン2基
 推 進 軸 2軸
 主  缶   ロ号艦本式水管缶(重油専燃) 2基
 出  力   19000馬力
  計画速力  27.8ノット
 航 続 力 18ノットで3500浬
 燃料搭載量  重油370トン
 乗  員   211名
 兵  装   12.7センチ40口径連装高角砲 1基
 12.7センチ40口径単装高角砲 1基
 25ミリ3連装機銃 4基
 61センチ4連装魚雷発射管 1基